「時間を……ですか」


「今も刻々と私達の世界は悪魔に侵食されつつあるわ。その上にあなたの‘‘記憶’’をも手に入れられたら、もう打つ手は……」


そこでアメリアは言葉を詰まらせ、懇願するように俺を見つめてくる。


「わ、分かりました。まだ状況は完全には飲み込めてませんけど、はい。俺もアメリアさんを信じて戦います」


俺はそう力強く宣言した。が、アメリアから返って来た返事は意外なものだった。


「だめよっ。あなたは戦わないで」


一転、アメリアは厳しい面持ちになって言った。


「え?どうしてですか?何もしないでいろっていうんですか?」


「いいえ、違うの。あなたは逃げることだけを考えて。いくら体に大量の‘‘記憶’’を宿していると言っても、所詮は脆い人間。悪魔の前には余りにも無力なのよ」


アメリアの必死な口調からすると悪魔とは相当なものらしいことが分かった。


「逃げること、だけですか?」


「そうよ。戦うのは私に任せて。大丈夫。私が何があってもあなたを護るわ」


男としては情けないことだ。俺はひたすら逃げて、しかもその上に自分と同年代の女の子に護ってもらうことになるとは。


「でもそれにも制限があるの」


「制限?」


「えぇ。今の私の体は私の次元の、私の‘‘記憶’’を投影してこの世界に現出させているの。だから莫大な‘‘情報’’を持つあなたを除いて、この世界は私に触れることは出来ないの。映像だからね」


そこで曖昧だった情報がやっと繋がりを持ち始めた。