カツカツという乾いた音が辺りに響き、反響する。あまり聞かない、少なくともこの田舎の散歩道では聞いたことが無い音だ。


それは自分の前方からのもの。前方から早足で歩いてくる女性のヒールの地面を突く音だった。確かにこんな辺鄙な田舎の道をヒールで歩く人を初めて見たが、それはその人の勝手というものだ。普通はそのまま通り過ぎるものだが、そうもいかなかった。


その女性が知り合いだとかいう訳では無い。何よりその服装が俺の視線を固定させた。


その人は腿あたりまである黒のロングブーツにこれまた短い黒のエナメル質のミニスカ。そして、胸元が開いた黒のエナメル質の上着。そして前も留めず、風になびかせた地面すれすれの裾のロングコート。正に黒一色だった。


あまりにも肌の露出面積が広い。コートとブーツを脱いだら、肌面積が布面積を上回るだろう。


「寒そーー」


それが俺が彼女に抱いた初めての感想だった。


「ぼんてーじってやつかな」


そう記憶の蔵から曖昧な単語を引き出し、口にぼそりと出す。


「それの甘口って感じだな」


そして、そう、どうでも良いことを付け足す。


初めは本気でやってるのかコスプレなのかとも思ったが、距離が縮まるにつれ、その考えは消えていった。


逆にどこか神々しさというか、神聖というか。つまり、いやらしさは感じられず、こう……制服のように見えなくも無いという風に印象が変わった。


「いや、ホント寒そうだな。な?」


と傍らのマフに同意を求めるも目下鼻を利かせ、マーキングの最中で聞く耳を持たない。もっとも何をしている時でもしていなくても俺の言うことに反応はしてくれないが。