それが気に喰わなかったらしい。アメリアは例の通り、土足で玄関に上がって、俺を力任せに立ち上がらせると、刃を持っていない左手で俺の頬を鷲掴みにして言った。


アメリアの息が俺の顔に掛かるほど顔を近づけ、言う。


「へー、じゃないわよ。全然状況を理解してないようだけど、あ・な・たの命が悪魔に狙われているのよ?もし、アンタが喰われでもしたら、どうなることか。そう、最早アンタだけの問題じゃない。この世界と私達側の世界にも関わる問題なのよ。分かった?」


そう言い終わって、アメリアの握力から頬が開放される。


「悪魔どうこうより前に、あんたに、いや、すいません。アメリアさんに三枚に下ろされるとこだったのに?」


俺は精一杯の反論をした。


それは意外にも効果てきめんで、アメリアは声のトーンを一段落として、それは私の判断ミスだったわと素直に認めた。


さあ。一件落着だ。俺は勝手にそう決めつけ、お開きにしようとして言った。


「じゃあそういうことで、一件落着っと。アメリアさん綺麗だし、反省しているようなので、警察は呼ばないことにしました。時間も遅いですから、早く帰った方がいいですよ?」


それじゃ、と手を振ってアメリアが玄関から出て行くのを期待した俺が浅はかだった。


下ろしていた左手で俺の顎を摘み、ついでに右手に持っていた物騒なエモノのハラでペチペチと俺の頬を軽くなじりながら。頭の悪い子供を哀れむような、それでいて、見るものを震え上がらせるような妖しい笑顔で言った。


「どうもこの状況を分かってないみたいね。良いわ。今日はとことん話し合いましょ?上がらせてもらうわね」


良くねえぇぇぇぇ。あーーーー、しかも土足で!?


アメリアは我が物顔だ。さっきまで俺が勉強していた和室へ入っていってしまった。


長い夜になるだろうことは必至だった。