玄関の明かりは点けていなかった。和室から漏れる蛍光灯の光のみで薄暗かったが、……おそらくそうだ。


すぐ脇にあった玄関の証明のスイッチを押す。


やっぱり。


その奇抜な格好、整った顔立ち、そして鮮やかな長い黒髪。ただ夕方の時と違って、髪のサイドを数個の金のリングで髪留めをしている。だが明らかに散歩の時の女だった。


想定外の訪問者に動揺しつつも、それを隠すようにもう一度尋ねる。


「あのどちら様ですか?もう親も皆寝ちゃってるんですけ……」


そう言い終らないうちに女は俺を無視して迫って来た。


「たぶんここで合ってると思うんだけど」


女が始めて発した言葉がそれだった。


はぁ?というのが感想だ。あまりにも的外れなその言葉に、口にも出せなかった。


女はブーツを脱ぐ素振りも見せず、片足を玄関に上げようと時、やっと俺の体は動いた。


「ちょちょちょ待ったぁぁぁぁ」


見ず知らずの人間が土足で家に上がろうとするのを阻止しようと女の両肩を押さえた。


思いもかけない反応が返ってきた。


「え?ちょっと?いやぁぁっ」


女は既に前へと重心を移動させていたので、急に前に立ちはだかった俺という壁に不法侵入未遂者はバランスを崩し、俺と一緒にそのまま玄関に倒れこむ事となった。


ドスンッ、と受身を取れないままに落ちたために衝撃は女にほとんど回ってしまう形となってしまった。


「痛つつ」


と手が床を思い切り張り手した痛みに耐える俺。一方、俺が四つんばいになった下敷きになった相手は、


「いったっーーーーい」