ゴーン、と壁に掛けられた小さめの振り子時計が時刻を知らせる。


午前0時30分。


おそらく起きているのはこの家で自分一人だろう。


いつにも増して集中出来たので、夜中まで一人勉強する孤独も感じなかった。


「そろそろ寝るか」


テーブルに散乱しているいくつかの教科の問題集やノートを適当に閉じて、一箇所にまとめ、かたずけを早々に終わらせ、立ち上がった時だった。


カチャリ。と静まり返った空間に音が妙に響いた。玄関の鍵が開いた音だ。


父親がまだ帰って来ていなかったのだろうか……。この時間に家に帰って来るとしたら父親しかいない。


なぜか恐る恐る抜き足になってしまいながらも階段と玄関に続く戸を少し開く。


ガチャ。と今度は玄関の扉を引く音がした。それはあまり音を出さないようにとか、こっそりとではなく、堂々したもの。


その堂々さから、やはり父親だったのかと安心した時だった。


目を丸くした。玄関に現れたのは父親なんかじゃあ無い。


女だ。しかも知らない、赤の他人の。


俺はすかさず和室の戸を勢い良く開け、そのまま家に上がりこんで来そうな勢いの女の前に立った。


「あの、どちら様ですか?こんな夜中に?」


もしかして家の誰かの知り合いという可能性も視野に入れて、なるべく丁寧にそう尋ねる。だとしてもこの時間帯に訪問するのは非常識なのは間違いない。


女は答えない。まるで俺が見えていないかのように目を合わせない。


あの時と同じだ。


そのデジャブにも似た感覚で気付いた。この目の前にいる女は、今日の夕方、散歩の時にすれ違った、あの女だ。