表彰式を終え、深紅の優勝旗とともに記念撮影をし、ようやくグラウンドを跡にした。


西工業のエースの右手中指の骨が折れていた事を知ったのは、ダッグアウトを出てロッカールームに入った時だった。


「準決勝の東ヶ丘戦の時に骨折したんだって」


そう言ったのは、花菜だった。


それでも、西工業のエースには、マウンドに立たなければいけない理由があったのだろう。


その理由は分からないし、訊く必要もない。


でも、指の骨が折れても投げなければいけない理由があったのだろう。


その壮絶な舞台裏を知っているのは、西工業の野球部だけだ。


どのチームにも、壮絶な舞台裏がある。


それが、高校野球だ。


ロッカールームに入り、アイシングを終えた時、監督が入ってきた。


よく頑張ったな、とか、おめでとう、だとか。


そういう激励の一言を貰えるのだと思っていたばかりに、監督の涙を見た時は選手たちの方が号泣だった。


「お前たちには、頭があがらん」


ありがとう、そう言って、監督は涙をぼろぼろこぼした。


あの、鬼監督がだ。


帰り支度をしている時、監督が外に出るように言ってきた。


ロッカールームの外に出ると、監督が言った。


「これから学校に戻って、挨拶がある。でも、それは岸野にまかせればいい。お前は相澤と一緒に後から来なさい」


「何でですか?」


「1塁アルプススタンドで、吉田がお前を待っているそうだ。行きなさい」


それだけ言って、監督はロッカールームに戻り、おれのグローブとスパイクとスポーツバッグを持って出てきた。


おれの左肩をさすりながら、監督は笑った。


「痛いか?」


「あ……はい。少し」


「この肩で、よく6試合も投げ抜いたな。1番、お前に頭があがらん」


ありがとう、夏井。


そう言って、監督は帽子をとり、深々と頭を下げてきた。