放課後の寝技特訓・熊田先輩の横四方固め

見渡す限りの水平線。

“圧倒的”と言う以外の表現が浮かばない。

この船にいると、俺がいかにちっぽけなのかが痛いほどわかる。

そしてそれは恥じるべきことではなかった。

良いのだ。ちっぽけで良い。

ちっぽけなりに、ただ、胸を張りこの海原に挑めば良いのだ。

俺がそんな事を考えていると、パソコンが誰に伝えようとするわけでもなく言った。

「あっしは…、あっしはぼっちゃまといつかこうして…、航海が出来たらなぁって思っていたんです…。向こう見ずなぼっちゃまがね…、あっしに無理な命令して、あっしが冷汗をかきながら、“へーい”なんて言ったりしましてね…。あっしはね、いつか、いつかそうしたいってね、そう願ってたんですな。今、二人並んで、大海原に立ってる。遠い異国を目指しながら…。へへっ…、夢みたいですぜ…、あっしは今、まるで夢の中にいるみたいですぜ、…。もう…、何も思い残すことはないくらいでさあ…」

俺の胸に、急に熱いものが込み上げてきた。
言葉にすれば堰を切ったように感情は溢れ出すだろう。
俺はただ黙って水平線を見つめ続ける。

「グスッ、すみません…、ずびばぜんぼっちゃま…、あっしは、嬉しすぎて、無駄口を叩いちまいまして…」

涙に咽ぶパソコン。
真っ直ぐだ。こいつは馬鹿が付くぐらい正直な男なのだ。

正直さに打たれ、俺もただ素直に答えた。

「これが最後ではないぞ…、これが始まりだからな…、俺はお前と七つの海を越える。旅は続くんだ、覚悟しておけ」

パソコンの涙は、いつまでも止まることはなかった。