「ハォアッ…」

俺を押さえ込んでいた先輩の力が抜けた瞬間の声。

隙をつき押さえ込みから逃れた俺に、見守っていた先輩達が声を掛けてくる。

「すごいな、だいぶ上達してきたんじゃないか?」

「この調子ならなんとか大会までにメドがつくかもしれないな」

寝技のセンス0とうたわれた俺の予想外の善戦に、どの先輩達も嬉しそうに笑っている。

そんな空気の中、一点の曇りが…。

押さえ込みを決められなかった先輩、というか、俺のチョリソーチェックを受けてしまった先輩だけは、盛り上がりの輪の中には入ってこない。

険しい顔のまま、畳の上に座り込んでいる。

「まずいな…、露骨にチョリチェしすぎたか?」
思わず心でつぶやく俺。

しかし先輩は、大きく息を一つ吐くと
「うん!まあ、良いだろ!今みたいな動きなら、大会でも少しは通用するんじゃないか?」

俺はそんな先輩の言葉に
「うぃ〜す!ありがとござっす!」
などとお礼を言いつつ、今決行したチョリソーチェックには満足しきれてはいなかった。

やっぱね、2年の先輩のをチェックするってのは名案で、それなりの手応えはあったけどさ、一本じゃね、サンプルとしてはさ…。

…。

やるしかないでしょ…。

2年生は5人。

チョリソーは5本…。

残る4本、すべてチェックするしかないな…。