6時間目の授業を終えた俺は部室へと向かっていた。

強い緊張から、顔が強ばっているのが自分でもわかる。

まるで戦場へ赴く新米兵士のような顔だ。

ダメだ、こんなんじゃうまくやれっこない。

笑え!笑うんだ俺!

青ざめた顔したピッチャーが打者を打ち取れると思うかい?

俺は無理に笑顔をつくってみる。

OK!それだ!
忘れるなよ、でかい事をやるときこそ笑顔でいるんだ。

心なしか顔色もいくぶんましになった気がする。

大きく深呼吸した後、俺は部室のドアを開けた。



「うい〜っす」

いつものようにあいさつをする俺。
胸に秘めた決意は誰も知らない。

「お〜、うい〜っす」

先輩達はすでに柔道着に着替えている。

別に良い。

着替えの時にチョリソーをチェックしようなんて思ってはいない。

トイレットで横から覗いてやろうとも思っていない。

そんな半端な覚悟じゃないのだ。

もっと手っ取り早く、俺はやってやろうと思ってる。

直だ。

寝技の練習の時に、2年生のチョリソーを直にさわってチェックしてやるつもりだ。

部室のすみで主将が教科書を開いてる。

俺は主将に言った。

「主将!大会も近いし、俺、今日は寝技の練習オンリーでいきたいのですが!」

主将は教科書から目を離し、俺をちらっと見て言った。

「そうか〜、良いぞ〜。俺も熊田とマンツーでやるからな。おい、2年、今日も寝技練習に付き合ってやれ」

2年生の先輩達が“はい”と答える前に、主将はもう教科書に目線を戻している。

主将は練習前のわずかな時間にも、参考書や教科書を開いて勉強をしている。
おそらくテスト前の勉強ではなく受験の勉強なのだろう。

部活と勉強。
限られた時間を目一杯有効に使う主将。

今日の俺の寝技練習の目的が、チョリソーチェックだと知れたら、そんな主将は怒るだろうな。

しかし、俺も、いまさら引けはしないんだ。