放課後の寝技特訓・熊田先輩の横四方固め

いきなり大声をだした俺にクラスみんなが注目。
遠山くんも声を荒げた俺にびっくりして固まってる。

“良いぞ!マジックショーはこれからだ!”

俺はさらに声を張って言ってやった。

「遠山よお、お前のメガネよ、おもしれえなって俺はいつも思ってたんだよ!しかし今日はいつもよりさらに上をいってるよな!」

遠山くん、口をあけたまんま。
目はキョロキョロしてる。
軽くパニック状態だ。

「いつもよ、へんなメガネだって思ってたんだよ!お前のメガネ、今時あんまりみないメガネだからよ!でも今日わかったよ。お前のメガネのおもしれえ理由がよ!」

まくしたてる俺。
突然の事態、クラスのみんなの緊張もビンビン伝わってくる。
さあ、ここからがマジックショーの一番の見せ場だ。

「似てるんだよな〜、お前のメガネ姿って…。お前わけわかんなくずぶ濡れでよ、なんか、髪の毛も濡れただろ?なあ、髪の毛が濡れたせいで、自慢のぺったりヘアーもすっかりウネウネしてるじゃんかよ。今のお前、超天然パーマ炸裂してるもんな。まじ、メガネ&パーマ絶好調って感じ。あのさ…、今日のお前さ…、まじそっくり!今…、お前さ、キム・ジョ○イルそっくりだよ!」

言い終わった瞬間、クラスの空気が変わったのがわかった。

そもそも、遠山くんがずぶ濡れで教室に入ってきた時点で、種はまかれていたのだ。

教室の扉を開けた男が全身ずぶ濡れだった。
あまりも突然にやってきた理解不能。
クラスのみんなは非日常を見せ付けられて、心に“不安”という種がまかれていたのだ。

さらに普段柔和な俺の突然の激高。

もう、みんなはわからない。

わからない故に“不安”の種は芽をだし、つるは激しく伸びる。

気が付いた時にはがんじがらめだ。

その時、クラスのみんなが願っていたのは、ただ理解したいということだけ。

なんでも良い。
不安を払拭したい。
誰か答えをくれ、たとえ合っていようが間違っていようが。

そこに提示された明確な回答。

“お前さ、キム・ジョ○イルそっくりだよ!”

ぶらさがりたい。
しがみつきたい。
不安を断ち切り、楽になりたい。

クラスみんなの心が、俺の言葉に救い求めるかねように流れ込んできた。