放課後の寝技特訓・熊田先輩の横四方固め

昔、親戚に手品好きな叔父がいた。
小さい頃、俺はよく叔父から手品をみせてもらって喜んでいたものだ。

手品といっても簡単なもので、右手に握っていたマッチ棒が消えたり、左手に握っていたタバコが右手に移ったりするぐらい。
けれど俺はそれが面白かった。

なんで今あった物が消えたり移動したりするのかが、不思議でしょうがなかった。

叔父も「もう一回、もう一回!」と真剣に見られるのが、嬉しかったのだろう。
ある時幼い俺に、手品のタネ明かしをしてくれた。

「いいか、大切なのは目線なんだ。」

幼い俺はうなづく。

「右手にタネがある時は、左手に注目させろ。左手にタネがある時は、右手に注目させろ。見られたくないものから、いかに目線を外させるかが手品の鍵だ」

…。

遠山くんのうわばきに付いた茶色い染みを見て、俺は幼い頃に聞いた叔父の言葉を思い出した。

大好きだったそんな叔父は、二年前に他界している。

俺は頭の中でつぶやく。

「そうだよね、叔父さん…。“右手にタネがある時は左手に注目させろ”だよね…。うわばきから目線を外させるには…。うん、わかるよ、俺にもわかるよ…、叔父さん…、見ててよ、叔父さんに教わった俺の手品…」

遠山くんのうわばきからみんなの目線をそらさせるために、俺は大声で言ってやった。

「おい!遠山!お前のメガネって、いつ見てもホントおもしれえよな!」