放課後の寝技特訓・熊田先輩の横四方固め

そんな息子に母親は、「今日のは少し違うのよ〜」と思わせぶりな態度で料理を運んでくる。
作った表情がちょっとうざいので、俺、目をそらす。
どうやらさっきのリップサービスが裏目に出たようだ。
母親のテンションが上がり始めてきつい。
「ジャーン、今日はこれで〜す!」
まじ、効果音とかうざい。皿置かれたけど、なんかうざ過ぎて見る気しないし。

「麦茶!母ちゃん麦茶持ってきて!」
母親から距離をとる、俺の頭脳プレイ。ナイス、俺。
母親は「あらあら」とか言いながら冷蔵庫に麦茶を取りに行く。
「あらあら」とか言わなくていいのに、まじいいかげんにしてほしいって思いながら、俺はテーブルの上に目をやった。

「!?」

なんだこれ?いつものソーセージより、だいぶ長い?

母親は振り返り自慢げに言う。
「いつものソーセージと違うでしょ。職場の人のお土産なんだって。ドイツのソーセージも有名だけど、これはチョリソーっていうの。本場スペインのチョリソーよ」
そんな説明はどうでもいいから、お前は冷蔵庫に行って早く麦茶を持ってこい。
そう心で呟きながらも、俺は焼いたチョリソーの薫りにつられて箸をのばした。

心地よい歯ざわりとともに、口の中に香ばしさが広がる。
「あ、うまいこれ…」

思わず口に出た言葉を、母親は聞き逃さず、「そうでしょ、ドイツのソーセージとは少し味が違うみたいね。見た目も長いし、少し塩加減も強いみたい、同じ豚肉でも挽肉じゃないから…」右手に麦茶のペットボトル、左手にコップを持ちながらの母親の説明。まじどうでもいい。
「母ちゃん麦茶ついで」

母親はチョリソーの説明をやめて麦茶をつぐ。
つぎ終わったらまた説明始める気満々、まじ勘弁。
ここですぐにもう一本食えば、「気に入ったの?」なんて母親の説明がヒートアップすることは見え見えだ。
けどやっぱすぐ食いたい。チョリソーまじ魅力的。
我慢できずに俺はチョリソーに箸をのばした。

「気に入った?」

麦茶のコップを差出しながら母親が笑ってる。
俺の口の中には、塩と胡椒がきいた豚肉の味が広がってる。やばい、俺も超笑顔だ。
「うん、マジ美味い、このソーセージ」
すると母親は得意げに
「これはソーセージじゃなくて“チョリソー”よ!」
う〜ん、母親うざ過ぎ…。