放課後の寝技特訓・熊田先輩の横四方固め

けど、事はそううまくは運ばなかった。

俺はすぐに異変に気が付いたんだ。

亜希がさ、俺のことを見てないんだよ。

“田村正和作戦”にはまり喜んでしゃべりだすと思いきや、亜希はぼんやり廊下の方を見てるの。

さっきまであんなに俺に笑いかけてくれてたのにさ。

黙ったまま、廊下の方を見てる亜希。

俺は“着メロは何?”の答えを待った。

何秒かの時間が過ぎていく。

よし、もう一度聞いてみるか、と俺が口を開きかけた瞬間にさ、亜希はボソっとつぶやいたんだ。

「あ…、ビゼー…」って。


意味がわからなかったね。

なんで亜希は俺から目をそらすのか?
そして、つぶやいた“ビゼー”とは何を意味するものなのか?

そのどぢらもまったくわからなかった。

想定外の亜希の言動に、俺は軽くテンパりだしてた。

俺のメンタルってさ、ふにゃふにゃだったんだよね。

そのふにゃふにゃな地盤に計算外の亜希の一撃だったからね。
まさに大地震が起きた感じ。

突発的な事態に混乱が生じてた。

俺のメンタルはまさに大災害だった。

自分に言い聞かせる。
落ち着いて立て直せ、って。

問題点を洗い出し、この状況を切り抜けるために、俺は災害対策本部を設置し、情報を収集することにしたんだ。

うん、脳みその中にね、災害対策本部を設置した。

“『本部!本部!ビゼーの見当がつきません!』
現場の悲鳴にも似た報告を受ける俺、なんだ?ビゼー?洋楽か…?俺はあんまり洋楽詳しくないんだ…、困ったな。
しかしビゼーていうぐらいだからな。十中八九、外人だろ。
これは鉄板。堅い。
だってビゼーなんて漢字習ってないもからね。絶対外人のはずだ。
で、あれだろ?
どうせラップとかの奴だろ?
流行ってんだよな、たぶん。今時流行るのなんてラップしかないだろ?
ビゼーってさ、きっと、アメリカの黒人ラッパーじゃないか?
よし、現場にはその方向で情報を収集させよう!
『聞こえるか!聞こえるか!ビゼーはラップと思われる!ビゼーはラップと思われる!』”