放課後の寝技特訓・熊田先輩の横四方固め

「お父さんが送ってくれたから」
茶わんだ箸だを並べながら母親は言った。

「飯が何か?」という質問に「お父さんが送ってくれたから」だけでは、おかずが何かわからないので若干不満足だったが、そこは優しい息子、母親の気持ちを汲み取る。
「父さん元気?」
と問いかけてやった。
俺100点。

「どうかしら、まあ元気なんだろうけど、お父さんの事だからビールばっかり飲んでるんじゃない?」
なんて言いつつも母親は嬉しそう。
優しい、俺、優しい息子。

父親は去年からドイツに行っている。電力関係の技術者がドイツで何をするのかなんて知らないが、まあ、ドイツの人の役にたつ事をしてるんだろう。
単身赴任だが2、3ヵ月に一度は帰ってくるし、俺と顔を合わせれば「いやぁ、やっぱ次に戦争するときもドイツと組むのが無難だな、あいつら几帳面だから、職人の俺と肌が合うんだ」なんてEU仕込みのベタなジョークもかましてくる。
家族と離れてる後ろめたさからか、ちょくちょくワインだビールだソーセージだと送ってよこしてくるし、父親が元気なのは俺も知ってるが、あえて「父さん元気?」なんて聞いたりして、まあ、優しい息子の母親へのリップサービスだ。

「そっか父さん元気なんだろうね。う〜ん、でもさ、どうせまたソーセージ送ってきたんでしょ?むこうのって、なんか皮が透けてたりしててちょっと見た目が悪いんだよね〜、やっぱ俺は日本のソーセージのほうが味が上な気がする」

たいして味もわからないくせに、気分で食を語ってみた。

ここらへんは俺、ダメ息子。