放課後の寝技特訓・熊田先輩の横四方固め

チャリンコ・チャリンコ・ヘイ・ヘイ・ホー♪

頑張れ!俺のニコラス・ケイジ号!
上り坂をかけ登れ!

とか命令したって、ニコラス・ケイジ号は自転車なのでこがなきゃ坂を登らない。
部活でこってり稽古した後だもん、もう身体中の筋肉パンパン。
ペダルを踏み込む度に太ももに痛みが走る。

“痛い…、痛い…、でも気持ちいい…”
なんて、SM風なつぶやきをしてみても、苦痛は快楽にはならなかったので、自転車を下りて押し始める俺。

“こんな坂登れっか、バ〜カ!日本、坂なくせ!”

あきらかに無茶な主張をしてみる。

こんなことクラスで言ったら、ブス軍団に集中砲火で火だるまになること受け合いだぁ、なんて考えてたら、今日の遠山くんを思い出して、ちょっとブルーに。

うん、俺はなるべく謙虚に生きよう。

“いや〜、良い角度ですね”
なんて、すかさず上り坂にお世辞を言ってみる。

俺ももう16歳だからな、こういう大人のテクニックもおぼえなくては、世の中を渡っていけないってもんよ。

“大人に成るって汚れることなのかなぁ”と、可哀想な自分にひたるプレイを楽しんでたら、携帯が鳴った。

着信音は超クールに“ルーマニアモンテビデオ”だ。
「ヘロー・マーム?」

息子のイングリッシュに母親閉口。

「…?どうしたの?何してるの?」

正直息子の俺は答える。
「うんとね、今ね、お世辞言ってたよ」

母親、息子の言動がつかめない。
「…?誰に…?」

正直息子の俺は答える。
「上り坂にお世辞言ってた」

母親、息子の言動がつかめない。
「上り坂にお世辞…?悪いものでも食べたの…?」

正直息子の俺は答える。
「母ちゃんの弁当しか食ってないよ」

母ちゃん、忌々しそうに言う。
「あんた、最近父さんに似てきたわね…。」

まあ、俺の遺伝子は半分あの人のだからね、と思いつつ、
「部活の帰りで、今、チャリンコ。あと20分くらいで家着くよん。飯よろぴく」
と伝え、プチっとボタン押して通話終了。