けどね、俺がセンスあるのは立ち技だけだったね。
寝技はからっきしダメ。
つまらないから、練習しない。
だからいつまでたっても寝技は弱かった。
中学生相手の県大会で、結局優勝できなかったのも寝技が弱かったからだし。

全国クラスの奴と当たるとね、立ち技してくれないのね。
ほとんどまともに組み合ってくれない。
相手も知ってるからね、俺が寝技ダメなの。
だから無理に寝技に持ち込まれ負けてた。

中学最後の県大会、準決勝までオール一本で勝ち進んだ時も、結局は無理矢理寝技に持ち込まれ敗退した。

順位決定戦も寝技でやぶれ、県四位。
全国大会は不出場。
それが中学時代の俺の成績。

つまんなくなってたな。
勝ち負けなんか、どうでも良かったし。
投げるか投げられるか、それが好きだったからね。

まわりの奴らにはね、
「寝技の練習をすれば全国大会だって行けるのにもったいない」
「お前は柔道がわかってないバカだ」
って言われたりもした。
まあ、そうなのかもしれないが、そういうのには初めから興味がなかったしね。

俺はたぶん柔道が好きなんじゃなく、投げたり投げられたりが好きなんだね。

組み合う、虚をつき相手の懐に潜り込む、相手の身体から重さが消える、宙を舞う、気付くと寝転んでる。

それだけなんだよね。

俺には。

強豪の私立高校から誘われたりもしたけど、普通に勉強して県立の進学校に入学した。
高校では柔道は続けなくてもいいかなって思ってたし。


それがさ、まあ、熊田先輩に出会ったおかげでさ…。