だからね、簡単だったの。

試合に勝つのなんて簡単だった。

試合ではただ、気持ち良く投げられないようにすれば良いんだもん。
道場の練習の逆をやるだけ。
投げられなきゃ、たいてい負けないし。

後は、自分が気持ち良く投げられてたタイミングで技をかければ良いだけ。

気付くと視界が一回転してね、相手が寝転んでて一本って感じだった。

4年も5年もずっと投げられてりゃね、わかるよね。
どうすりゃ投げれるのかなんてさ。

そんなんだからね、一年の時から、立ち技なら負けることはなかったんだ。

うん、俺には立ち技のセンスがあったんだねぇ。

そうするうちにね、楽しくなってくるの。
投げられるのより、投げるのが楽しくなるのね。
したら驚くほど強くなってく。
中三になる頃には、バリバリの大学生を相手にしてもさ、立ち技だけの乱取りなら五分だったし。
「ガキのくせに…」
って言葉を聞くたびに、俺は嬉しくてさらに稽古に励むようになったし。