ようやく美枝が剃刀を床に投げ出した頃には、時計の針は上に上り、窓の外は暗闇となっていた。


無数に重ねられた小さな切傷から垂れた血液は、ゆっくりと指先を伝い、やがてポタポタと重力に従い床へ落ちる。


美枝は看護婦姿だった。


つまり、仕事を終え、着替えもせずにそのままコートを着て帰って来たのだ。


そして帰って来て呆然と立ち尽す暇もなく、洗面所の剃刀へと手が伸びた。



「……………ふふ」



なぜか出てくる笑み。

私がこんなことしてるって知ったら、きっと皆びっくりするわね。


一週間我慢したからか、傷跡は消えかかっていた。

それを眺めていたら、何だか腹が立った。
数十分前の光景が浮かんだ。


そして剃刀を押し付けた。







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夜中になり、我に返った美枝は、とりあえずハンドタオルで傷口を押さえた。

玄関に戻り、放り投げていたバックを手に、リビングへ戻った。


バックから空の弁当を取り出し、流しに置いて



「うそ、切りすぎた……」



ハンドタオルが真っ赤に染まり、シンクに紅い液体が数滴落ちた。



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