午後22時。


美枝は自宅のリビングのソファに座り、じっと目の前のテーブルに乗せてある携帯を睨んでいた。



「……………」



根拠は無い。
だが、必ず河野が電話してくる、という確信があった。


美枝の頭の中で河野と有藤が愛し合っている光景が作り出され、美枝の神経を刺激した。


いらついた美枝は立ち上がると、昨日床に投げたままの剃刀を拾い上げた。

そして服の左腕を捲ると、傷だらけの手首に――――




《プルルルルッ》




いきなり鳴りだした携帯の電子音に反応して、美枝は剃刀を落とした。

電子音は美枝の眠りかけていた記憶を呼びさました。







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「美枝、一緒にお風呂に入ろうか」



父親がそういって当時10歳だった少女に微笑んだ。


少女は、何時もと変わらぬ父親の笑みに、嬉しそうに笑いながら頷いた。















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