冷気が立ち上り真っ白な霧が消えた頃、その中心に居たロゼッタは膝を付き肩で息をしていた。
「…ハァ……ハァ………なかなかやるじゃないか……………だが、この程度じゃ私は…………」
鞭を握り締めふらつきながら立ち上がったロゼッタは、何かを言いかけたが途中で言葉を止め左手の方向へと目を向けた。
ロゼッタにつられるように同じ方向へ目を向けたヴェルディとコウガ。
3人の瞳に映ったのは、腰までの長いプラチナブロンドの髪を風に靡かせる少女、ジゼルの姿であった。
「……ジゼ……?」
「ジゼちゃん……?」
どこかいつもと違うジゼルにヴェルディとコウガは眉を潜めるが、何が起こったのか体全体から力が抜け2人は地面に座り込む。
ジゼルの傍にいるリョーガも2人と同じように地に座り込み、身動きが取れない状況でいた。
「……な、何だよ………」
感情のない茶色の瞳に見つめられ、恐怖を覚えたロゼッタは震えながら後退る。
ピンクの瞳に映っていたジゼルの姿は一瞬にして消え、消えたかと思えば直ぐ目の前に現れた。
有り得ない速さにロゼッタは悲鳴もあげる暇さえなく、ジゼルの拳を頬に受ける。
か弱い腕からは考えられない力に、腰を地にぶつけながらも必死で逃げようと立ち上がった。
だが走り出そうとした頃には既にジゼルは目の前に立ちはだかり、無駄の無い動きで蹴りを入れる。
「ぐっ……!」
横腹に蹴りを受け飛ばされたロゼッタは近くの木の幹に勢い良く身をぶつけ血を吐く。
肋骨を数本やられたのか身動きの取れないロゼッタ。
そんなロゼッタの落とした赤黒い薔薇をあしらった帽子を踏みつけながら、顔色一つ変える事なく歩み寄って来るジゼル。
ゆっくりと距離を縮めるジゼルの右手には巨大な斧が。
斧を引きずりながらやって来るジゼルを恐怖に脅え身を揺らし、大きく目を見開く。
隠していた左目はえぐり取られたかのようにその瞳はなく痛々しい色に染まっていた。

