【短】特等席


「希望する教科は…。これと、これと…これ!」

あたしを席に座らせた美佐子は、夏期講習の申込用紙への記入を迫ってきた。

「えーっ!3教科も?」

驚いたあたしに顔を近づけてきた美佐子が、

「だって、そのほうが都合いいんだもん」

コソコソと話す。


片想いの相手と、なんとか顔を合わせられるようにと選択した3教科なのだろうけど。

「……必要ないし。っていうか、同じ教室で受けられないでしょ?意味ないじゃん…」

ブツブツ言いながらも、美佐子が指をさした教科に丸をつけていく。

シャープペンシルと紙のこすれる音を聞きながら、つい先ほど、

「ちゃんと提出しなさいよ」

と、美佐子に追い返された彼の背中を思い出していた。


「大和には?何の教科を受けさせるの?」

「えーっ?決まってるじゃん」

あたしのペンケースの中身を物色中の美佐子がニンマリと笑った。

「“彼”と、同じ教科…?」

「アッタリ~」