【短】特等席


その日、ずい分と時間が経ってから、駐輪場へと向かうふたりの姿を目にすることができた。


うつむき歩く美佐子。

そんな彼女の手を引き、ゆっくりと歩く彼。


夏の太陽が、キラキラと輝いた世界をつくり出していた。

空も、みどりも、風も。

陽の光に照らされて、何もかもが澄んだ色をしている。


その中を歩くふたりの姿は、ちっぽけながらも、四角く切り取られた景色の中に、なくてはならないもののように思えた。


誰もいない教室から見下ろす世界は、あまりにもまぶしすぎた。


「……ぐすっ…」


あなたは、いつになったら気づいてくれますか?


“好きです”

心の中で何度となく投げかけてきたこの言葉に。


「……ばっかみたい」

口に出さなくちゃ、想いは伝わらないのにね。