【短】特等席


「大和に…。今は…大和じゃないと、…だめなんだよね」


美佐子と、ずっと一緒にいた人だから。

美佐子のこと、ずっと想ってきた人だから。


彼ならきっと、美佐子の心の支えになってくれる。


しばらく考え込んでいた彼が、小さく息を吐き出した。

「…あいつは?」

「体育館…裏…」

「わかった」

小さく頷いた彼が、あたしに背を向け歩き出す。

赤みをおびた茶色い髪を右手でくしゃくしゃにして、ちょっぴり面倒くさそうに歩く彼だけど。

そのスピードは、だんだんと速さを増していく。


もう、頭の中は美佐子のことでいっぱいなんだ。


廊下を思いっきり走る彼の姿は、あっという間にあたしの視界から消えてしまった。


「…うっ…。ぐすっ…」


後悔するのかな。

美佐子のもとに彼を行かせたこと、後悔しちゃうのかな。


「ぐすっ…」


仕方ないよね。

あたしじゃ無理だもん。

きっと美佐子も、今は彼のことを必要としてるはず。