【短】特等席


「うそ…でしょ…?だって…、だって……」

泣きながら美佐子が教えてくれた矢野くんの言葉で、あたしの目からは涙がこぼれ落ちた。


《…他に、好きな子が……いたんだっ…て…》


「嘘だったらいいのにね…」

真っ赤な目を細め、無理して笑顔をつくる美佐子を見て、目の奥は痛いくらいに熱をおびていく。


美佐子が、どれだけ矢野くんのことを好きか。

それを知っているから、

《なんか、ね…。その彼女と…付き合うことに、なっ…た、…って…っ》

悔しくて、悔しくてたまらなかった。


「うーっ…。いやだよぉ……」

そう言ってあたしの胸で涙を流す美佐子。


矢野くんのことを話す美佐子は、いつも幸せそうだった。

ちょっぴり恥ずかしそうに笑う美佐子は、女のあたしでさえドキドキしてしまうくらいに綺麗だった。


なんだかあたしまで、矢野くんに裏切られた気分だよ。


悔しくて、悲しくて、どうしたらいいのかわからなかった。

美佐子にどんな言葉をかけてあげればいいのか、わからなくなった。


ただ浮かんでくるのは、彼の笑顔だけ。


彼に、助けてもらいたかった。