【短】特等席


“美佐子を忘れるために誰かと付き合う”

彼はそうすることを選ばなかった。

それを知って、単純に喜んでしまったけど。

よくよく考えてみたらそれは、彼の、美佐子に対する愛情の深さの表れであり、あたしの恋が実らないことを意味していた。


いっそのこと、想いを打ち明けて楽になりたい。

誰にも知られないまま、彼への想いをなかったことにしてしまいたい。


そんな考えの間を、いったりきたりする。


このままでいいの?

あたしは一体、どうしたいの?


自問自答を繰り返す。


「はよーッス…」

あたしを追い抜いていった彼の背中を、ただ“恋しい”という気持ちだけでは見つめられなくなっていた。


そんな日々を過ごしていたある日のこと。


夏休みに入って数日後。

夏期講習が始まって二日目のことだった。


…あたしの前で美佐子が泣いた。