【短】特等席


考えないわけじゃない。

彼が、“美佐子を忘れるために誰かと付き合う”こと。


あの場所が、ほかの誰かのものになってしまうこと。


考えるたびに不安になって、苦しくなるんだ。



「ダメだったらしいよ」

「………え?」

「大和くん、断ったんだって」

「……」


一歩も前に踏み出すことができない弱虫なあたしは、友だちのその言葉で救われたんだ。


「あ…。そ、そうなんだ…。残念、だったね…」

心にもない言葉を口にしたあたしは、やっぱりここでも泣きそうになる。

「大和くんてさぁ~。やっぱり美佐子のことが好きなのかなぁ」

「……え?」

じんわりと滲み出てくる汗が気持ち悪い。

「見てて思わない?大和くんは美佐子のこと、ただの幼なじみと思ってないんじゃないかって」

ペラペラと喋る友だちの声が雑音と化す。

「美佐子のことが好きだから、大和くんは彼女つくらないのかもねぇ」


胸が、苦しい。