【短】特等席


「……聞いてる?」

突然、ヒョイと目の前に現れた友だちの顔に驚いて、

「ひゃっ…」

体がびくんと反応した。

先ほどから、ドクドクと脈打っていた心臓が大きく飛び跳ねたせいだ。


「話、聞いてた?」

友だちは少し不機嫌そうな表情をして言った。

「あ、うん…。ごめ…。聞いてたよ、ちゃんと」

「だったらなんか反応してよ~。つまんないじゃんっ」

口をとがらせた友だちの目を盗み、激しく動く心臓を落ち着かせようと胸をさすった。

「ごめん、ごめんっ。なんか、びっくりしちゃって…。ほら、あんなにおとなしそうな子が、…告白だなんて、ね。
行動に移るのが早いっていうか…」

彼の後ろが空席になってから、さほど日にちは経っていない。

指を折り数えてみるけれど、頭がぼんやりとしていて、その動作はなんの意味もなさなかった。


彼は、なんて返事をしたんだろう。


そう考えると涙がこぼれ落ちてしまう。

それがわかっているから、あたしは何も考えないように、ただ前を見つめていた。