「はよーッス…」
「あ、おはよ…う」
美佐子に彼氏ができてから、自転車であたしを追い抜いていく彼の声は、ちょっぴり元気がない。
一週間前まで美佐子の指定席だった彼の後ろは、今は空席で。
あたし以外に、一体どれだけの人間があの場所を狙っているのだろう。
「あ、…やっ、大和せんぱいっ…。お、はよ…ございますっ」
前の方からそんな声が聞こえてくると、ドクン、と心臓が飛び跳ねて、体が一気に熱くなった。
「あ、…はよッス」
突然声をかけられて驚いたものの、彼は声のした方を見て挨拶をする。
「きゃーっ。『あ、…はよッス』だってぇ」
「かわい~っ!」
彼の後ろ姿を、きゃあきゃあ言いながら眺める彼女たち。
「あの一年、ついに行動に出たね」
あたしの隣を歩く友だちは、面白くなりそうだ、と言って笑った。



