【短】特等席


「なに?なんで泣いてるの?」

美佐子の困ったような声が耳元で響く。

急に泣き出して美佐子に抱きついたあたしは、ゆっくりと体を離した。


「うまくいって…よかった、って…。美佐子に彼氏ができたんだって、そう思ったら、つい…」

あたしの涙を外に押し出した、いろんな感情のうちのひとつを口にした。

「やだなぁ。そんなことぐらいで泣かないでよ」

と言った美佐子の声は、とても嬉しそうだった。

そして、

「じゃあ、あたしも。
咲季に彼氏ができたら泣いてあげる。
あ。その前に、好きな人つくらなくちゃね」

と言って、にっこり笑った。


「……うん」


あたしが彼を好きだということを、美佐子は知らない。

知ったらきっと、

「あんなヤツのどこがいいの?咲季ってば、変わってる」

ケラケラ笑ったあと、

「うまくいくように協力してあげようか?」

って言うに決まってる。


「咲季があんたのこと好きなんだって。付き合ってみたら?」

好きな子からそう言われたら、彼はどう思うだろう。


それが怖くて、美佐子には言うことができないんだ。