【短】特等席


胸が苦しくなって、涙が溢れ出した。

「うー…っ」

たまらずあたしは、美佐子の首に腕を回す。

「なっ…。ちょっと、どうしたの…?」

突然しがみついてきたあたしの背中を、美佐子は戸惑いながらも優しくさすってくれた。


いろんな感情が、あたしの中を駆けめぐる。

いろんな感情が、あたしの涙を外に押し出していく。

「…っ……ひっく…」


美佐子の頭の中が矢野くんのことでいっぱいのように。

あたしの頭の中は、彼のことでいっぱいだった。


彼は、美佐子に彼氏ができたと知って、

“美佐子が好き”

という気持ちを、どうするのだろうか。


彼は、美佐子以外の誰かを好きになれるだろうか。


彼の心の傷は、どれだけ深いのだろうか。


考え出したらきりがない。