【短】特等席


「あ。そういえばさ、大和、あたしと総一郎のこと信じてないみたいなんだよね」

美佐子が伸ばしかけの前髪をかきあげながら言った。

「……え?」

ドクン、ドクンと脈打つ心臓。

「今日さ、先にひとりで学校に来たの。
そしたらさ、すっごい勢いで文句言いに来て…。先に来た理由とか聞いてくるし。
面倒くさいから大和には言うつもりなかったんだけど」

そう言ってとがらせた唇は、ピンクのグロスのおかげで艶やかな輝きを放つ。

「むふふ…。まぁ、いずれわかることだから、教えてあげたけど」

「……そうなんだ」

「ふふふ…っ」


ねぇ、大和?

大和は、こんな“女の子”してる美佐子を、見たことある?

美佐子に彼氏ができたと知って、どんな気持ち?



彼の、寂しそうな顔が目に浮かぶ。

まるで、飼い主に見捨てられた子犬のような彼の姿が。