【短】特等席


目の前の、

「もうね、ほんとに信じられなくて」

何度もそう口にする美佐子は、なんだかいつもの美佐子じゃないみたい。

「よかったね~。ほんと、よかったぁ」

美佐子の笑顔を見て、自然と口にした言葉。

美佐子はそれを、

「うふふ…」

幸せいっぱいの表情で受け取った。


美佐子の恋がうまくいって、ほんとに嬉しい。

自分のことのように嬉しく思う。


……でもね。

《大和に告白したいけど、いつも美佐子と一緒だから……告白できないんだ、って…》

《……少し、大和のこと…自由にしてあげても…いいんじゃないかな、って…。
ほら、登下校のときとかさ、1年に声かけさせてあげられるように…》

美佐子が矢野くんに告白したきっかけが、例えば、あたしの言葉だったとしたら?


結果的に、恋は実ったからよかったけど。

もし、ダメだったら…。


そう考えると、胸の奥がチクチクと痛いよ。