【短】特等席


「咲季ってば遅いよ~。どーしたの?」

お昼近くになってやっと姿を現したあたしのもとに、美佐子が駆け寄ってきた。

「えへへ。…ちょっとね~」

なんて笑ってごまかす。


あれからあたしは、ジリジリと照りつける太陽も無視して、泣きながら、あてもなく歩いていた。

なかなか止まりそうにない涙も、真っ赤な目だって、美佐子や彼には見られたくなかったから。

学校の前を通り過ぎ、ぶらぶら歩きながら、涙も気持ちも落ち着くのを待っていたら、太陽が随分と高い位置まで昇ってしまったのだ。


「話したいことがたくさんあるのに~」

興奮気味であたしを教室の外に連れ出すと、

「聞いて、聞いて~っ」

美佐子は頬を赤く染め、矢野くんとのことを話しはじめた。


少し腫れが残る目を、いつ気づかれるかとヒヤヒヤしてたけど、どうやら美佐子の頭の中は矢野くんでいっぱいらしい。