【短】特等席


《乗ってく?》

彼の言葉に、できれば首を縦に振りたかった。


彼のことを“ただの友だち”だと思えなくなってから、ずっと…。

憧れてたから。


こんなとき、美佐子ならどうする?


「ラッキー!助かっちゃった。暑いから、サッサと行っちゃって~」

なんて軽く言って、乗ってしまう?


だけどあたしは…。

意地を張ってしまった。


だってあたしは…。


美佐子じゃない。


《今日は誰かさんがいないことだし》


美佐子の指定席に、簡単には座れないよ。


涙をこらえながら、

「…もうすぐ追いつくからって、メールが…。だから、……いい」

そんな嘘をついた。


彼は、

「ふぅん。そっか。じゃあ、お先」

嘘を真に受けて、あたしからどんどん遠ざかっていく。