【短】特等席


「なんなら、乗ってく?」


「…へっ!?」

自分の耳を疑った。

あまりにも突然の彼の言葉に、頭がついていかない。


「えっ?…の、…乗る……?」

「あぁ。今日は誰かさんがいないことだし。乗ってく?」

彼はそう言うと親指を立て、自分の後ろを指さした。


いつも美佐子がいた。

いつも乗りたいと思っていた。

彼のうしろ。


あたしが…。

……ここに?


ドキドキを通り越し、バクバクと激しく心臓が動く。


「ん?どした?」

あたしの返事を待っていた彼が、首を傾げる。


じわじわと目の奥が熱くなっていく。

あたしは視線を自分の足元へと落とした。


「ううん…。いい。……歩いてくから」