【短】特等席


「……あたしの…せいかもしれない」

吐き出した声はあまりにも小さくて、幸い、彼の耳には届かずに済んだ。

「…ったく。美佐子のヤツ…。ひとこと文句言ってやる」

唇をきゅっと噛み、ペダルを踏み込もうとした彼が、

「あ…」

思い出したかのようにあたしを見た。


彼のまん丸な目に見つめられ、じりじりと容赦なく突き刺さる陽の光も手伝ってか、あたしの体は確実に体温を上昇させていった。


「……なに?」

「いつも一緒にいる友だちは?」

「え…?」

突然そんなことを聞かれて驚いたあたしの声は、

「あ、あぁ…。『寝坊したから先、行って』って…」

ちょっぴり上擦ってしまった。

「フッ…。そっか」

笑みをこぼした彼。

「……なんで?」

胸のドキドキがバレないように、平常心を保とうと必死なあたし。