【短】特等席


去年の夏、美佐子から、

「総一郎のことが…好きなんだよね」

と打ち明けられたときの気持ちと、似てる。


素直に、“この恋がうまくいけばいいな”と思った。

彼をとられなくて済んだんだなって、ホッとした。

彼の、悲しむ顔が浮かんできて、胸の奥がキリキリと痛んだ。



「はよッス」

キキッと自転車のブレーキ音がすぐ横で響く。

いつも追い抜かれたあと耳にする声を、今日はめずらしく隣で聞いた。

「あ…。おはよう…」

思わず立ち止まってあいさつをしたあたしに、

「美佐子、知らね?」

彼が言った。


「え……っ?」

「アイツ、先に行きやがった。連絡もなしで…」

睨みつけるようにして自分の後ろに視線をやった彼。


そこに、美佐子の姿はなかった。