【短】特等席


“やめときなよ”

ドクン、ドクンと痛いくらいに動く心臓が、そう言っているようだ。

それでもあたしは、

「さっきの、…続きだけど…。大和のことを好きだって言ってる子が…って話…」

美佐子の背中に向かって話す。

「んー…」

美佐子はこっちも見ずに気のない返事をした。


「偶然、聞いちゃったんだよね。…大和のこと話してるのを、さ…」

「……」



1ヶ月ほど前、偶然耳にした会話。


いつものように美佐子を自転車の後ろに乗せ、

「はよーッス…」

あたしを追い越していった彼のことを、あたしの少し前を歩いていた1年生たちが、

「かっこいい」

とか、

「かわいい」

とか騒いでる中、ひとり真面目な顔して、

「大和センパイに、告白したいんだよね」

と言った子がいた。



「その子、なんて言ったと思う?」

やっぱり美佐子はあたしに背中を向けたまま。

「……知らないよ、そんなの」


「大和に告白したいけど、いつも美佐子と一緒だから……告白できないんだ、って…」