【短】特等席


「大和がかわいそ~」

冗談ぽく言ってみたけど。

泣きマネなんかして、ふざけちゃったけど。


気持ちはめちゃくちゃ詰め込んでいた。


好きな人に会いに行く美佐子を、自転車の後ろに乗せて走る彼のことを想うと、胸が苦しい。


ねぇ、美佐子?

このペン書きやすいね、なんて感心してる場合じゃないよ。

大和が知ったら傷つくよ。



出会ってから今日までの1年と4ヶ月の間、ふたりのことを見てきたけど。

美佐子は彼のことを“ただの幼なじみ”としか見ていなくて。

でも彼は…。

やっぱり美佐子のことが好きだった。


見ていればわかる。


「かわいそー…」

あたしのつぶやきに気づいた美佐子が、

「もーっ。大和のことはどーでもいいから!ほら、続き!」

名前の欄を指でトントンと叩いた。