「サ~キ~っ!おっはよー……ぅ」
後ろから聞こえてきた声は、あっという間にあたしを追い抜いていく。
声の主に、
「あ。おはよー」
とあいさつを返すけど、届いたかどうかはきわどいところ。
極力、声のボリュームは控えめに。
だって、ほら。
まだ眠たそうな、
「はよーッス…」
って彼の声を、自分の声で消してしまいたくないんだもん。
“はよーッス”
たったそれだけの言葉を、あたしは昨日の夜から心待ちにしてた。
自転車であたしを追い抜くとき、ちょっぴり眠たそうに“おはよう”と言う彼の後ろ姿をこっそり眺める。
毎朝楽しみにしてること。
幸せを感じるひととき。
だけど、
もし、あの場所に座っているのがあたしだったら…。
そう考えて、胸が苦しくなる瞬間でもあった。