『今日から花梨は俺のメイドな。』

『…。』

でーんっとソファーに座り、
黒く長い髪をかき上げながらそう告げるのは、
悔しくも少し前まで憧れの先輩なんて思っていた人。


とにもかくにも、
こうなったのは数日前、何故か夜中、
父、佐々木治郎から告げられたこの言葉だった。


『花梨、父さん、倒産したから。』

『はぃ?寝言は寝ながら言えゃ』

深刻そうな顔とは裏腹に、ダジャレをこぼすのは、
そこら辺のただのオッサンでは無く、大企業のトップに立つ者だ。

いや、立っていた者と言うべきだろう


気まぐれな性格、飽きっぽい性格で色々な物に手を出し、母が家を飛び出した代わりに
たまたまその一つが大成功しただけ。
きっと、下手な鉄砲数打ちゃ当たるとはこの事を言うのでしょう。



さて、大変なのはこれから。
部屋をぐるりと見回すと、一つ一つの壷ゃ名画に貼られた差し押さえのシール。
恐らくこの豪邸もどこかに売り飛ばされる

『で?どうすんの。』


『父さんだけなら何とか生きてけると思うんだが、ハッキリ言って、お前の授業料とかは払えん。』

キッパリ言い切る治郎。
まぁ…それは最もな意見


私は普通に暮らしていたら噂にも聞かないような、お金持ち学校に通っていて、
生きていくのもやっとな奴にこれを払えとはとても言えない。



『じゃあ、どうしろと?』


流石に1年半通ったし、今からの転入等面倒。そして金がかかる。
やっぱり、中退かな…



『父さんの友達に預ける。そこそこ裕福だし、卒業まで面倒をみてくれと頼んだら、心から承諾してくれた。』

『なっ…』

父からの意外な解答。

赤の他人と暮らすことは不安だが、
今やただのオッサン…
それ以下のこの人と、のたれ死ぬよりはマシだろう。


その親切な友達の家の地図を受け取り、
明日?今日?(夜中で時間分かんない。)の学校の帰り、そのままそちらに向かう事になった。

『んじゃ、達者でな。』


か…軽い。

まぁ、この人はこういう人だから。


父をそこら辺まで見送り、とにかく寝ることにした。