「あ、そうそう。リンちゃんが相手したという貴族さまが、先ほどこちらに来られての。動けるようになったら、顔を出して欲しいとのことだ。しばらくは、ここに滞在するらしい。」


 言うと、地図を渡すドクター。


 ギル君の親たちか。


「ファイアルの貴族がアイスラの庶民に侘びを入れるのか?」


 あまり、信用できる話ではないな。


「戦争は15年前に終わっている。お前は、ファイアル人に恨みでもあるのか?」


「いや・・・。」


 ただ、ファイアル人は野蛮人だと聞いている。


 ケンカを好み、力だけが全てと考える連中だと。


「だったら、きちんと会ってきなさい。どれだけ民族が違えど、人間は人間だ。」


 ドクターの言葉はとても、重く感じた。


 民族、称える神、象徴するもの、全て違えど、人間は人間。


 見た目も変わらなければ、食べるものも一緒。


 朝起きて、夜には眠り、笑い、泣き、怒って、悲しんで、恋をして、子供を生んで、死んでいく。


 宗派なんてものは、本当に些細な違いなのだろう。


 そんな些細な違いだけで1000年も争い続けているのだ。


 俺たちは・・・。


「・・・・ある意味、物事を一番よく理解しているのは、この子なのかも知れんな。」


 グストは隣に眠るリンの頭を撫でて思った。


 ・・・・・『民族ってなんだ?私は人間だぞ。』


 その通りだな、リン。


 俺もお前も、みんな人間だ。