群青の街

「待ってー!」

しかし歩き始めて数秒もしないうちに、男の背後から、可愛らしい声が聞こえた。男はその声に即座に足を止め、振り返る。

「ハル、待って!」

その少女は走りながらもう一度そう言った。

男はため息をつきながらも、ライターを取り出し、灯りをつけた。


「リリア、灯りも持たずに外に出るなっていつも言ってんだろ。」

「あ、ハル!」


灯りのおかげで男の顔が確認できた少女は、嬉しそうな顔で駆け寄る。

「だって家にはハルが持ってるそのライターしか灯りがないじゃない。キャンドル持ってくるにも火がないから。」

男より頭2つ分くらい背が小さいその少女は、その整っていながらも可愛らしい顔を少し歪めながら、男の持っているライターに人差し指をつきつけた。
男はそんな少女を見て、またため息を漏らした。


「だからお前は留守番してればいいんだよ。仕事にはついてくるなって言ってあるだろ?」

「だって今日は確認作業なんでしょ?だったら危なくないじゃん。」

「危なくない、なんて保証はどこにもねえだろ。この街にいるヤツはロクでもないことしか考えてねえやつらばかりなんだ。」

「それはハルだって同じじゃない。」

少女はケロリとそんな言葉を口にした。まぁ確かに男の生業を考えれば、あながち間違ってはいないが。
男はあっさりと突きつけられた事実に、ヒクと口唇をひきつらせた。


「あのなぁ…」

「あたしはハルがいれば平気だもん、だから一緒に連れてって!大丈夫、『本番』の時は邪魔しないから!」