いつでも薄暗いこの街が、さらに暗くなって、ついには闇が降ってきたら、この街が『夜』を迎えた、その男は行動を開始する。


もはや廃れ、さびれたこの街には、もうほとんど人などいない。


いや、世間一般にいう、ロクでもない人間なら、いくらでもいる。


そう、死んでも誰も悲しまないような、そんな、孤独で凶暴なヤツなら。


その男は、そんなヤツを始末する仕事を生業としていた。いつからか、なんてことは覚えていない。けれど、物心ついた時にはもう、人間の『始末の仕方』を知っていた。


本当に闇の降るこの街では、『夜』になると、僅かな月明かりといくつかの街灯だけが頼りだ。それさえもない時には、いつでも持ち歩いているライターを使う。

男はライターをつけて、その灯りで今回のターゲットの書かれた紙をもう一度見た。


『シン・タバタ 29歳
ミナト2町3番角3階』


ターゲット指令の紙には、いつも名前と年齢・ターゲットが住み着いている場所しか書かれていない。仕事をする前に、顔やターゲットの生業の確認作業は、全部男自身でしなければならない。


今日はその確認作業が仕事だった。


男は紙を愛用しているカーゴパンツのポケットに無造作に突っ込んで、歩き始めた。