群青の街

「ごめんなさい、指名入っちゃったみたい…。また来て下さいね、オキタさん。」

さっきの態度とは打って変わり、誰もが見惚れるような笑顔でそう口にすると、ナミは足早にそこを立ち去った。


近くにいたボーイに、指名が入っているか聞いたが、今日はまだ次の指名は入っていなかった。

「じゃあ入ったら呼んで。」

「わかりました。」







ホステスたちの楽屋は、店のちょうど真上にある。そしてその上がちょうど、このビルの屋上だ。ナミはそこでタバコを吸うのが好きだった。

ちょうど、真夜中。闇の降るこの街に星は出ない。それでも、このバーと同じように、夜の職業を営むいくつかのビルのネオンが光っているのをみると、こんな廃れた街でも綺麗に思える。


………なんであたしは、ここにいるんだろう。


もう何度考えたかわからないことを、ナミは今日も思った。

決してこんな人生を歩みたかったわけじゃない。こんな街に住み着きたかったわけじゃない。

出ようと思えば、いくらでも出ていける。それだけの金も、知恵も、自分は身につけたはずだ。

けれど、自分の身体にも、頭にも、心にも、悲しいほどにこの『街』が染み付いている。

結局自分は知っているのだ。

この街の中でしか、自分は生きていけないことを。




すると突然、携帯電話が鳴った。


もう指名入ったの…?


まだ仕事には出たくないなぁ、などと思いながら、ナミは携帯を取り出した。

けれど画面に表示されたその名前を見て、ナミは急いで通話ボタンを押した。さっきまで沈んでいた心が、一気に浮き立つのがわかった。

「もしもーし。」

《よう、仕事中悪いな。》

「んーん、今休憩中。」