辺りは、闇だった。
もはやこの街に『夜』などない。
その闇をかいくぐって、男はようやく相手を目と鼻の先に捉えた。
小さく、息をはいた。
緊張と不安とで、体中が小刻みに震えていた。
胸ポケットにしのばせておいた、初めて持つそれに、手を伸ばした。
それは固く、冷たかった。
これからする『コト』を、男に思い知らせているようだった。
けして気づかれぬように、音を消して気配を消して、相手に近づく。
ちょうど曲がり角だった。
相手がそれを曲がった。
と同時に、引き金を引いた。
この角を出たらーーーーーー、ヤる。
男は固くそれを両手で握り締めて、前を見据えて、その瞳に憎悪の色を宿して、一歩を踏み出そうとした。
ーーーーパァン!
足を止め、とっさに身構えた。
今のは間違いなく、銃の音。
けれど自分ではない。
誰だ、誰がやった、アイツはどうなった。
息が荒かった。
緊張と興奮で、心臓が驚くほど速く打っていた。
角から、恐る恐る顔を出した。
闇ばかりで何もわからない。
思い切って飛び出した。
両手には銃を持って、体の前に突き出して。
誰かが倒れていた。
ゆっくりと、近寄った。
それは、先程まで自分が狙っていた相手だった。
思わず顔を上げた。
まだこいつをやったヤツがいるかもしれない。
右、左、前、後ろ、そしてーーーーーー
上を見上げた。
高くそびえた塀の上に、誰かが立っていた。
顔は見えない、しかし体格からして、それは間違いなく少年だった。
目が合ったのが、なぜだかわかった。
なぜだろう、空気が止まった。
自分の中の何かが。
闇の中その少年に、
自分も撃ち抜かれた気がした。
