「会えない?」

昼の十二時過ぎ、けたたましく鳴る携帯電話に安眠を妨げられ、腹立たしさを堪えて出たところ、飛び込んで来た第一声がそれだった。

声の主は昨夜接触した室岡ではなく若い女だった。
聞き慣れた声だったので瞬時に何者であるか察しがついた。


「女良(めら)、今何時だと思っているんだ」

睡眠を妨害してきた犯人は同僚の女良だった。
私と同じウサギコウモリである。
私達ウサギコウモリは絶滅危惧種類に指定されており、昔はよく仲間に会うことができたが今ではこの女良しか知らない。
彼女もまた私以外のウサギコウモリは知らないと言う。


「あたし今日から仕事なんだけどさ、ちょっと来てよ。ほんと今回はサイテーなの」

「用があるならそちらから来るのが礼儀だろう」

「なによ、あんたも変わんないわね、加茂郷。とにかく呼ぶから、飛んできてよね」

「女良、おまえなあ…」


こっちにも仕事があるんだ、と言うよりはやく電話は切れていた。

窮屈な衣類を着、欠伸をしながら伸びをする。

ホテルの部屋の窓を開け、飛び立とうとした瞬間、女良の超音波が聞こえてきた。

窓枠から足を離し、飛ぶ。

落ちる寸前、体は本来の私の姿に変わり、翼を広げる。