君への距離~あなたに一番近い場所~

シオと佳奈は幼なじみで、高1から付き合っていた。



去っていく佳奈の後ろ姿を見つめて、シオは思う。


(いい加減にしろ、だと?)


怒りが込み上げる。


(野球のこと、何にも知らんくせに…


いっつもそうや!


休みの日、練習があると不機嫌になるし、

記念日に試合があると怒鳴るし、


…せめて最後くらい、優しくせいや!)




「中塩くん!」



(今度は誰やねん!)


振り返るとそこには中学のときの野球部のマネージャー、伊藤奏(イトウカナデ)がいた。





シオの高校は男子校だ。佳奈とは高校が近いので帰り道は一緒だが、奏とは卒業してから一度も会っていなかった。



「伊藤さん?久しぶり」

シオが曖昧に笑う。


「ひ、久しぶり!あの甲子園見てた…」

奏は顔を真っ赤にして言った。



「ああ、負けちゃったけどなぁ…」



「でもかっこよかった!」



「あ、ありがと…」



今、思えば同じマネージャーでも奏は杏とは真逆の女の子だと思う。


奏はおとなしくて人見知りな性格で、学校でも目立たない存在だった。


「メガネとったんやね?」


シオがなにげなく言った。


「あ、うん!」

奏はうれしそうだ。


シオはとくに話題もなく、


「じゃ、またね!」

といって帰ろうとしたその時、