「あなたのせいで…あなたのせいで…私の人生めちゃくちゃよ…っ」

奥寺さんの奥さん…愛子さんの目からボロボロと涙が溢れていた。



『愛子…もうすみれちゃんとは、俺…』

奥寺さんはきっと、もう別れたんだ、って言おうとしたんだと思う。


でも、


「うるさい!あなたは黙ってて!!」

きっと、普段は怒鳴ったりしない人なんだろう。


奥寺さんは黙り込んでしまった。




「申し訳ないと思ってます。

今まで、愛子さんも息子さんも苦しめてしまって…


本当にすみませんでしたっ」

頭を下げる。


行き交う人々が何事かと少し足を止める。

でも、愛子さんのナイフは通行人からは見えないようで。


ただ、修羅場だということはちゃんと伝わっているらしく、みんな苦笑いだ。



「今さら…何言ってるの…

もう、手遅れなのよ…」

愛子さんの涙は止まらず、余計に増しているようだった。