私だけのスーパーマン








「……あれ?」

なぜか涙が頬に伝う。


別れられて、嬉しいはずなのに。

なんで私、泣いてるんだろう。



『素敵ですね』

泉さんはハンカチを差し出す。

そのハンカチを受け取った。



『涙が出るくらい人を愛せるってすごく素敵だと思いませんか?』

ふっと優しく微笑む泉さん。


どうやらまだ心のどこかで奥寺さんのことを愛していたみたいだ。

気づかないフリをしていただけで、本当は分かってた。


最初の頃よりはだいぶ小さくなってしまっていたけれど、まだ愛はあった。

ハンカチをギュッと握った。



『これでいいんですか?ありがとう、って伝えなくて後悔しませんか?』

また、優しい泉さんの声。


そうだ。私、伝えてない。

いろんなことを教えてもらったのに何も言えてない。


私はバーを飛び出す。


『奥寺…さん?』

ただ、私はお礼の言葉を伝えることはできなかった。

なぜならそこにいたのは


「あなたがすみれさん…?」

哀しげな瞳で私を見つめる奥寺さんの奥さんらしき人がいたからだ。